2010年 09月 09日

セスの登場

 ロバーツ自身は、自動書記を経験した後の様子を次のように記しています。

 この事件があって以来、ふだんの主観的な体験までもが変わり始めました。事件の直後から急に、特にこれといった理由もなく、自分の見た夢を思い出すようになりました。それはまるで別の人生を発見したようでした。それだけではありません。それからの二カ月の間には、私の知っている限りではそれまで経験したことのない、鮮明な正夢を二つも見ました。
 こうして、ごく控え目な言い方をすれば、私達の好奇心が頭をもたげたのです。とある新聞の売店で、私達はESPExtra Sensory Perception。五感以外の感覚、またはその感覚を使って知覚情報を得る能力。「超感覚的知覚」、「超能力」などと訳されることもある)の本が一冊あるのに気づきました。表紙にある「透視夢」という題名が目に飛び込んできて、私達はその本を買いました。この頃、私は新しい本の構想を捜しているところだったのですが、この後にロブが私にした提案が元で、私達は、ずっと馴染んでいたそれまでの生活スタイルから、だんだんと離れていくことになるのでした。
 二人ですわって話をしていた、その時、買ったばかりのそのペーパーバック本は、私達二人の間にあるコーヒーテーブルに乗っていました。私が
 「小説三つ分の大雑把な筋書きはあるんだけど、そのどれも今一つ気に入らないのよ」
 と言うと、ロブは、その本を手に取って冗談まじりに言ったのです。
 「ESPの実践本でもやってみたら?」
 「ちょっと、あなた、どうかしてるんじゃないの?私、ESPのことなんて全然知らないのよ。だから、やるわけなんかないじゃない。それにノンフィクションになるわけでしょ。私は今までの人生でフィクションと詩以外は全然やったことないのよ」
 するとロブが言いました。
 「わかってるよ。でも、夢に興味があるんだろう?特に、あの2つの独特な夢を見てから。それに、先月のあの体験はなんて呼ぶの?あと、僕達が見た本はみんな有名な霊媒だけを取り扱ってたけど、普通の人はどうなんだろう?もし、誰でもこの能力を持ってたとしたら?」
 私は唖然としてロブを見つめていました。彼は、いたって真面目になっていました。
 「ひとまとまりの実験プランを立てて、とことん試してみられないか?自分がモルモットになるんだよ」
 そう考えてみると、ロブの言うことも、もっともでした。今、自分が興味をそそられるテーマを調査しながら、同時に本を一冊書けるわけですから。
 早速、次の日、スタートです。普通の人がESP能力を開発できるかどうか突きとめるための一連の実験を一週間で立案しました。そして、本の概要を書いて、とりたてて期待をすることもないまま、出版社の私の担当の方に送ったのです。
 すると驚いたことに、すぐに返事が来ました。それはとても熱狂的なもので、試しに三章か四章ほど欲しいとのことでした。ロブと私は喜んだものの、それと同時に、本の各章のタイトルを私がリストにして二人で眺めた時には、なんとも怖くなってしまいました。それは「降霊会をやってみよう」、「テレパシーは事実なのか、作り事なのか」、「ウィージーボードはどう使うか」などといったものだったのです。
 「じゃあ、やってごらん」と、ロブが笑いながら言いました。
 「あなたの提案ってのは、もう、いつもこんな調子なんだから」と言い返した私でしたが、この時、実際のところはいろいろと考えが変わってしまっていたのです。それというのも、私達は霊媒のところに行ったことなど一度もなく、テレパシーの経験などもありませんでしたし、それにウィージーボードを見たことさえもなかったのですから。それでも、その一方で思ったのです。「べつに何も失うものなんかないじゃない」(自分がフィクションを書くようになったのも、元はと言えばロブの提案がきっかけだったということを思い出したのは、それからしばらくしてからのことでした)。
 
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