Seth Network Japan
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第2章 扉は開く

 エルマイラ市はニューヨーク州中央南部(州境付近)に並ぶ都市群の中にある。市内を横切る形でチェマング川が東に流れているが、その川が氾濫(はんらん)してできた平野にほとんど収まるように街ができている。南北戦争の時代、ここにあった捕虜収容所は(地獄の“Hell”にかけて)「ヘルマイラ」と呼ばれたそうだが、それも市の歴史の一部だ。約 12,000 人の南部連邦支持者が囚(とら)われの身となり、そのうち 3,000 人近くが病気や劣悪な衛生状態のため命を落としたという。

 明るい面に目を向ければ、エルマイラは、アメリカの著述家でありユーモア作家でもあるマーク・トウェインが拠点とした土地だ。トウェインは 1870 年代、エルマイラの谷間を見渡しながら、「トム・ソーヤーの冒険」、「ハックルベリー・フィンの冒険」など、彼の最も有名な作品のいくつかを執筆した。最後にもう1つだけ加えると、公的な統計データによれば、カササギガモ(絶滅したとされる鴨の一種)が最後に目撃されたのもエルマイラで、1878 年 12 月 12 日のことだったそうだ。

 こんな事実をどうやって立証するのか、僕にはわからない。その次の日、地元の農夫が朝早く野良仕事をしている最中に別のカササギガモを目撃したかもしれないし、前の日と同じ鴨を見かけた可能性だってある。でも、記録が書き留められてしまえば、それが変わることはまずないだろう。鴨の目撃専門の歴史家諸氏には、僕が何らかの形で気分を害するようなことや政治的に不適切なことを言ったとしたらすみません、とも言っておこう。僕はカササギガモであろうと何ガモであろうと、鴨に対して敵意を抱いているわけでは全くない。正直、自分のスープの中にカササギガモの肉が入っていたとしても、それに気づくかどうかも定かでないくらいだ。

 いずれにしても、この朝、僕の頭にあったのは鴨ではなく、エルマイラ滞在の予定を立てることだった。ニューヨーク市からエルマイラ市の距離は片道 400 km 弱だ。現地に至るまで、ほとんど、ルート 17(17 号線)のハイウェーで行けばよかった。何とも奇遇な感じがした。ルート 17 には、僕の人生の中で最高に幸せな想い出がいくつかあったのだ。