Seth Network Japan
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セスの登場

 ロバーツ自身は、自動書記を経験したあとの様子を次のように記しています。


 この事件があって以来、ふだんの主観的な体験までもが変わり始めました。事件の直後から急に、特にこれといった理由もなく、自分の見た夢を思い出すようになりました。それはまるで別の人生を発見したようでした。それだけではありません。それからの2カ月の間には、わたしの知っている限りではそれまで経験したことのない、鮮明な正夢を2つも見ました。

 こうして、ごく控え目な言い方をすれば、わたしたちの好奇心が頭をもたげたのです。とある新聞の売店で、わたしたちは ESP の本が1冊あるのに気づきましたESPExtra Sensory Perception の略。五感以外の感覚、またはその感覚を使って知覚情報を得る能力。「超感覚的知覚」、「超能力」などと訳されることもある)。表紙にある「透視夢」という題名が目に飛び込んできて、わたしたちはその本を買いました。このころ、わたしは新しい本の構想を捜しているところだったのですが、このあと、ロブがわたしにした提案が元で、わたしたちは、ずっとなじんでいたそれまでの生活スタイルから、だんだんと離れていくことになるのでした。

 わたしたち二人がすわって話をしていたとき、二人の間にはコーヒーテーブルがあり、買ったばかりのそのペーパーバック本は、その上にありました。わたしが

 「小説3つ分の大ざっぱな筋書きはあるんだけど、そのどれも今一つ気に入らないのよ」

 と言うと、ロブは、その本を手に取って冗談まじりに言ったのです。

 「ESP の実践本でもやってみたら?」

 「ちょっと、あなた、どうかしてるんじゃないの?わたし、ESP のことなんて全然知らないのよ。だから、やるわけなんかないじゃない。それにノンフィクションになるわけでしょ。わたしは今までの人生でフィクションと詩以外は全然やったことないのよ」

 するとロブが言いました。

 「わかってるよ。でも、夢に興味があるんだろ?特に、あの2つの独特な夢を見てから。それに、先月のあの体験はなんて呼べばいいのかな?あと、僕たちが見た本はみんな有名な霊媒だけを扱ってたけど、普通の人はどうなんだろう?もし、誰でもこの能力を持ってたとしたら?」

 わたしはあぜんとしてロブを見つめていました。彼は、いたってまじめになっていました。

 「ひとまとまりの実験プランを立てて、とことん試してみられないか?自分がモルモットになるんだよ」

 そう考えてみると、ロブの言うことも、もっともでした。今、自分が興味をそそられるテーマを調査しながら、同時に本を一冊書けるわけですから。

 早速、次の日、スタートです。普通の人が ESP 能力を開発できるかどうか突きとめるための一連の実験を1週間で立案しました。そして、本の概要を書き、とりたてて期待もせず、出版社のわたしの担当者に送ったのです。

 すると驚いたことに、すぐに返事が来ました。それはとても熱狂的なもので、試しに3章か4章ほど欲しいとのことでした。ロブとわたしは喜んだものの、それと同時に、本の各章のタイトルをわたしがリストにして二人で眺めた時には、なんとも怖くなってしまいました。それは「降霊会をやってみよう」、「テレパシーは事実なのか、作り事なのか」、「ウィジャ・ボードはどう使うか」などといったものだったのです。

 「じゃあ、やってごらん」と、ロブが笑いながら言いました。

 「もう、あなたの提案ってのは、いつもこんな調子なんだから」と言い返したわたしでしたが、この時、実際のところはいろいろと考えが変わってしまっていたのです。というのも、わたしたちは霊媒のところに行ったことなど一度もなく、テレパシーの経験などもありませんでしたし、それにウィジャ・ボードを見たことさえもなかったのですから。でも、その一方で思ったのです。「べつに何も失うものなんかないじゃない」(自分がフィクションを書くようになったのも、元はと言えばロブの提案がきっかけだったのを思い出したのは、それからしばらくしてからのことでした)。