まさにその時、「大丈夫だ」という感覚、そして誠意と信頼をとてつもないほど感じました。ことば以前のレベルで、わたしにはセスが正しいとわかりました。「今こそがその時」だということです。わたしは心から(セスの意向に)同意しました。ロブの手をとろうと腕を伸ばし、すばやく「セスよ」と口ごもって告げました。その時にはもう、わたしの顔は変わり始め、(顔の)筋肉がセスの特徴を表す構成に組み変わっていたに違いありません。というのも、その最後の瞬間にわたしの目に映ったのは、巨大なカメラのレンズらしきものがクローズアップしてわたしにせまってくる様子だったからです…。
トランス状態から抜け出ると、ロブがほほ笑んでいました。ジャックとソーニャは呆然としているようで、カメラのスタッフたちはわたしをじっと見つめていました。番組は終わっていました。「セスはすばらしかったよ」とロブが言いました。わたしは、えもいわれぬほど、ほっとしました。無事に終了したのです。セスはテレビでも出てきたのでした。わたし自身は彼が出てきてくれたらと望みながらも同時に気が進まず、気持ちが揺れ動いていたんじゃなかったっけ?(と思いました)
「大丈夫ですか?何か(飲み物でも)持ってきましょうか?」とジャックが尋ねてきました。彼があまりにも心配している様子だったのでわたしは思わず笑ってしまいました。
(わたしは答えました)「いえ、快調です。いつもトランスから簡単に抜け出すものですから。でも、パンとコーヒーをいただけたらうれしいです。もう、おなかがすいちゃって」
わたしたち二人の周りには人が集まって小さなグループができていました。そこにいたのは、プロデューサー、アシスタントプロデューサー、ジャック、ソーニャ、そしてカメラスタッフたちです。わたしは微妙にうろたえた感じでロブに目を向けました。というのも、ジャックにはすべて全くいつもどおりだと請(う)けあったものの、実際には、このとき何かが違っていたからです。信じられないほどの速さで進む飛行機に乗っていたのが突然ぐっと引っぱって(無理矢理)止められたような感じがしていました。自分を通り抜けようと押しよせてくるエネルギーがあまりにも膨大なので、どうしたらいいのかわかりません。一瞬、わたしはふらっとよろけました。ジャックがわたしの腕をつかんでくれたのですが、それでわたしはよけいにどぎまぎしてしまいました。自分の顔が赤くなるのがわかったくらいです。トランス状態とは異様なものではなく、ごく自然な現象であるということを示すため、わたしは常日頃からできるだけ分別をわきまえた態度をとるよう心がけていました。ですから、自分が一瞬ふらついたことに不意をつかれたようで驚いてしまったのです。ロブがすぐ、そばに来てくれたので自分の感じている状態を説明しました。わたしたちはそのあとラジオ番組に出る予定で、そのラジオ局へのタクシーがすでに待機しています。わたしは自分のパンとコーヒーをとって、そのまま持っていきました。(次のページへ続く)